宮沢賢治の理想郷 イーハトーブ

宮沢賢治は岩手県花巻市の裕福な商家に生まれました。
大好きだった妹の死を目前にして詠んだ詩「永別の朝」の一句が有名です。
(あめゆじゅ とてちて けんじゃ)
宮沢賢治ファンの私の姉は、この句が大好きで、「いいでしょ〜」と涙ぐみながら訴えかけてきますが、私にはどうもピンときません。
「賢治兄よ、雨雪(みぞれ)を取ってきてくれよ。」
この言葉が訛っただけ、私にはそうとしか読めません。
「どこが良いの?」との問いに、私を納得させる答えはついに返ってきませんでした。


宮沢賢治の最も有名な顔写真は、視線を外した上目遣いの、はにかんだような表情が印象的です。
彼は稀代の空想家で造語の天才だったようです。
その最たる造語が「イーハトーブ」です。
彼の思い描いた人の暮らしの理想郷をそう呼びました。

熱心な真宗教徒であり、農民が幸せに暮らすために自分は何をすべきなのか、を彼は常に考えていたようです。「雨にも負けず・・」で始まる有名な詩は、そんな彼の理想とした生き方を表したとされます。

オノマトペ(擬音語や擬態語)を多用したことでも知られています。「風の又三郎」の冒頭の風の音「どっどど どどうど どどうと どどう」は特に有名です。東北地方の激しく冷たく吹きすさぶ風の音を、上手に言葉で表現したとされます。

「銀河鉄道の夜」では、主人公ジョバンニが偶然に乗り合わせた人達との会話を通して、人の本当の幸せとは何か、を読者に問うています。そして、その人達はみな亡者だと気づくことで、ミステリアスでファンタジックな物語に昇華するのです。何度読んでもピンとこない私は、恥ずかしながら、解説本を手に取り、ようやく理解することができました。


「宮沢賢治学会」なる組織があるそうです。
イーハトーブ館は学会の研究発表の場で、いまでも新しい研究本や解説本、絵本が絶え間なく出版されていて、展示販売されていました。宇宙飛行士・毛利衛さんも著者の一人です。

いまでも宮沢賢治のファンは絶えることがありません。
彼らの感性を揺さぶる何かを、宮沢賢治の残した言葉は持っていて、いまも何かを発信し続けている。
理屈先行型の理系男子の私には、到底理解できない魅力を彼は持っているのだ、そう理解することはできました。

宮沢賢治の言葉や物語は、頭で理解するものではないのかも知れません。


その日に訪れた「イーハトーブ館」は、建物のボリュームを感じない風景に溶け込んだ配置設計が良い建物で、アプローチの水面に映る青空が素敵でした。
そこを理解できたことが、せめてもの救いだったような気がしました。

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